前項において戦略をもつということがいかに重要であるかをお話させていただきましたが、戦略を考えるに当たり、参考になるものとして「ランチェスターの法則」というものがあります。この法則は特に、中小企業の戦略を考えるに際に役立つものと思われます。
では、「ランチェスターの法則」とはどのようなものでしょうか。いま、同じ戦闘能力をもった 軍と 軍が戦闘をするとします。軍は兵士が 名、 軍は 名。この陣容で両軍が一騎打ちをおこない徹底的に戦えば、最後には、 軍は全滅しますが、 軍も 名しか生存しないことになります。
一方、今度は一騎打ちではなく、両軍が近代兵器(戦闘機、ミサイル等)を使って戦闘を繰り広げるとすると、軍の1兵士は 軍の 兵士から攻撃を受けますが、 軍の1兵士は軍の 兵士から攻撃を受けることになり、これで徹底的に戦えば、 軍は全滅するにもかかわらず、 軍は 名の生存者を残すことができることになります。
前者がいわゆる「ランチェスターの第一法則」(別名「一騎打ちの法則」)であり、後者が「第二法則」といわれるものです。ここから導き出されるのが、数によって優位を占めているもの(マーケットシェアを押えているような強者)は「第二法則」を念頭において、物量作戦で、一人が多数を攻撃できるような遠隔的な方法(たとえば、広告宣伝戦略)で戦略を展開するのが効果的であり、かたや、マーケットシェアを握っていないか、これから新しいマーケットを作っていこうとする弱者は、「一騎打ちの法則」を念頭において、出来るだけ局地戦でゲリラ的に攻撃をしかけて、強者に打撃を与える戦略をとることが重要です。
吉川英二の小説「宮本武蔵」で、武蔵が、京都の一乗寺下り松で、吉岡道場の門下生数十名と戦ったとき、武蔵は、門下生を山道に誘い込み、狭い山道で一対一で相見え、何人かを倒しては、山に逃げ込み、最後にはほとんどの門下生を倒して去っていくという場面がありました。これはまさに、数的に圧倒的に不利である武蔵が「第一法則」を使って戦略を立てて戦ったものです。これは小説の中のもので、実際にそのように戦ったかどうかは定かではありませんが、弱者が強者を前に戦う際に参考になるエピソードではないでしょうか。
これまで、「強者」「弱者」という表現をしてまいりましたが、その区別は、会社規模の大小ではなく、マーケットシェアにおいて圧倒的な支配者を「強者」それ以外はすべて「弱者」として考えてください。たとえば、「サントリー」は「ウイスキー」では「強者」ですが、「ビール」では「弱者」ということになります。
では、最後に「ランチェスターの法則」を前提とした「強者の戦略」と「弱者の戦略」についてまとめてみると、
「強者の戦略」(第二法則)
①広域な総合戦を展開
②1人が多数を攻撃できる集団型の攻撃(確率戦)を行う
③接近戦を避け、間接的かつ遠隔的戦闘を展開(マスメディアを使った広告宣伝活動)
④圧倒的な兵力、物量で包囲戦を展開
⑤誘導作戦で敵の兵力を分散させる
「弱者の戦略」(第一法則)~「弱者」故に「戦略」が重要!
①狭い範囲での局地戦
②「一騎打ち」型の戦いを展開
③接近戦で挑む
④兵力を集約させ、一点集中攻撃を仕掛ける
⑤陽動作戦で敵をかく乱し、敵の注意を他に向けさせる
ということになります